部活が終わり、私は部室で日誌を書いていた。もちろん、この部屋に着替え中の部員は居ない。さすがに、私も部員が着替えてるところで、堂々と日誌を書くほど、遠慮がない奴じゃない(と自分では思っている)。
ただし。この部屋で1人きりというわけではない。なぜなら、既に着替え終わった部員が1人、目の前の椅子に座っているからだ。



「なぁ、ー。まだ終わらへんのー?もうみんな帰ってしもたで?」

「・・・見てわからない?まだ終わらないから、まだ書いてるんだけど。」

「もう、相変わらず冷たいなぁー。」

「うるさい。早く書いてほしいと思ってんなら、少しは黙って。」

「あぁ、が冷たいー。」

「だーかーら。黙れって。」



それでも、まだ「怖い怖い。」などと喋り続けている男は、クラスも部活も一緒の忍足侑士。しかも、私の彼氏でもあったりする。だから、この男は私と一緒に帰ろうと待ってくれているわけだ。
それにしても、もう少し静かに待ってくれないだろうか・・・?さっきから、全く集中できないんだけど。



「ホンマ、そない冷たくせんでもえぇやん?普段はみんなもおるし、恥ずかしいんかなぁーとか思うけど。今は、みんな帰ってしもたし。大丈夫やで?」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・って、無視かい。まぁ、えぇわ。さっさと書きー。んで、俺に甘えまくったらえぇから。」

「誰がそんなことするか。」

「だから、照れんでえぇって。」

「うるさい、黙れ。」



そんな言い合いをさっきから飽きずに繰り返している。・・・と言うか、いつも、こんな感じだ。まったく、侑士も懲りないって言うか・・・。
とりあえず、私に日誌を書かせてくれ・・・。



「でも、日誌って、そない苦労して書くもんでもないやろ?俺と喋りながらでも、書けるんちゃう?」

「書けないから、書けてないんでしょうが。日誌だって、ちゃんと書こうと思ったら、時間がかかるもんなのよ。」

がちゃんと書こうとしてるんは、わかるけど・・・。原因は、それだけやと思う?」

「・・・・・・何が言いたいの?」

「ほら。俺がおるからこそ、集中できひんとか!」

「うん、確かに。邪魔だし。」

「そういう意味やなくて・・・。」



それ以外に、何があるって言うんだ。・・・って、私もまた侑士に構ってしまった。だから、書くのが遅くなんのよ・・・。



「俺がおると、も構いたくなるとか。そういうことやん!」

「構いたいわけじゃないけど、放っとくわけにもいかないから。」

「それは、愛があるから、やろ?」



・・・・・・なるほど。要は、それが言いたかったのか。そんな馬鹿げたノリに付き合ってあげるほど、私は優しくない。



「はいはい。じゃ、もう日誌に集中したいから、そろそろ黙ろうねー。」

「うわ〜。流された。流されんのが1番傷つくのに・・・。」



そうだろうとも。だからこそ、流してやったんだから。これで、少しは黙ってくれるだろう、と思っていると、本当に侑士は静かになった。
・・・いや、確かにそうなるだろうと思ったし、そうなってほしいとは思ったけど。実際に、そうされると、少し驚く。



「・・・侑士?」

「ん?何・・・?」

「いや・・・。突然静かになられると、逆に気になる。」

「でも、静かにしといてほしいんやろ?」

「そりゃ・・・そうだけど・・・。でも・・・、ちょっとぐらいなら、喋ってもいいって言うか・・・。ほら!多少、音がある方が集中できるときもあるじゃない?そんな感じ。」

「・・・・・・・・・。あぁ、たしかに。そういうときってあるなぁ。」

「でしょ!」

「わかった。ほな、が何も考えんでも相槌できるような話をしといたらえぇねんな?」

「うん!それ、頼むよ。」



さすが、侑士!!やっぱり、私のことをわかってくれてるよね!そういう部分が侑士のいい所だと思うよ。



「今日、ジローのやつ、寝すぎてな。ベンチから落ちよってんかぁー。」

「うん。」

「で、落ちたっていうのに、ジローまだ寝とって・・・。」

「うん。」

「周りは心配やん?落ちて、動かんくなるなんて・・・。」

「うん。」

「打ち所が悪かったんちゃうやろか、とか思って、俺らは駆け寄ったんや。そんで、必死に声かけたら、いつもの調子で『なぁ〜に〜・・・?』って。・・・もう跡部のやつ、マジギレや。」

「ハハ。」



侑士はその後も、退屈はしない程度の聞いて流せる話を続けてくれた。
・・・やっぱり、侑士は話し上手だよね。そうやって、侑士のことを見直した私は、気にせずに日誌を書き続けた。



「ふぅ〜・・・、できた。」

「ん?終わったん?」



そう言った侑士の声は、私の後ろから聞こえてきた。



「わっ!ビックリした・・・。いつの間に?」

「結構さっきから、この辺におったで。気付かんかった?」

「うん・・・。それだけ集中して書いてたんだと思う。侑士のおかげだよ。ありがとう。」

「どういたしまして。」



ニコッと笑った侑士を見て、私もニコッと返した。そして、前に向き直り、目の前の日誌たちを片付けようと思ったとき。突然、何かの重みを感じた。視界の端には、私のじゃない誰かの腕が見えた。



「侑、士・・・?」

「だって、書き終わったんやろ?・・・さっき言うたやん。終わったら、甘えたらえぇって。」



確かに言われたけど・・・。でも!!それに対して私は「誰がそんなことするか。」と答えたはず・・・!!いや、間違いなく、そう答えたじゃない!!



「・・・・・・誰がそれに賛成したのよ。」

「んー・・・、俺?」

「私の意見は無視なのね?」

「無視はしてへんよ。だって、かて、俺のこと好きやろ?なら、えぇやん?」



そういう問題じゃない!・・・とか、ムキになれば、それこそ侑士の思う壺だろう。そう考えて、私は出来る限り冷静に答えた。
・・・でもね。本当は、すっごく緊張してるんだからね・・・!だ、だって・・・、侑士が後ろから抱きついて・・・。あ〜・・・!!!駄目だ!!考えたら、余計に・・・。



「全然好きじゃない。」

「えー?!そんなー・・・。ヒドイわ、・・・。俺はのこと、こんなにも愛してんのに・・・。」



耳元で言うな〜・・・!!!!アンタの声は、色っぽすぎるのよ・・・!!
でも、自覚があってやってるって可能性もあるわね・・・。どっちにしろ、私へのダメージは大きいのよ!



「私は愛してません。だから、離れてください。」

「嫌って言ったら、どうする?」

「それに対して、私が嫌って言う。」

「何やねん、それ・・・。まぁ、ええわ。に何言われようと、俺は離さへんから。」



うぅ・・・。確かに、この状況、私が一方的に不利だ・・・。でも、諦めないんだから・・・!!
・・・とは言っても・・・・・・、実際どうすれば・・・・・・・・・!!



「・・・・・・・・・・・・。」

?」

「・・・・・・何?」

「何、やないで。急に黙って、どないしたん?」

「・・・・・・考え事。」

「考え事??」



さすがに、今のは無理があったか。そりゃ、そうだ。さっきまで普通に喋ってた奴が、急に考え込むなんて、滅多にないもんね・・・。
でも、嘘ではないと思う。だって、本当にどうすればいいのかって考えてるんだし。・・・なんて思うのは屁理屈かもね。



「話聞くだけ聞こか?」

「え・・・?」

「考え事があるんやろ?口に出せば、何かえぇ解決策が思い浮かぶかもしれへんし。俺も力になれるかもしれへんしな。」



そう言ってくれた侑士の声に、私を疑う様子はなく。ましてや、からかおうなどという雰囲気でもなく。ただ、優しく、言葉をかけてくれた。



「ありがとう、侑士。・・・でも、大丈夫だから。」

「そうか・・・。何かあったら、俺に言いや?」



その声からも、私のことをちゃんと考えてくれてるんだってことがわかって、心から嬉しかった。
だんだん、恥ずかしさもマシになってきた私は、侑士の腕をそっと掴んで言った。



「侑士・・・。」

「ん?」

「侑士のそういうとこ、好きだよ。」

「俺ものこと好きやから。いつでも味方やで?」



さっきまで、あんなに離れたがってたのに、今はこの時間が長く続けばいいとまで思う。



。そろそろ帰る?」

「んー・・・。もう少しだけ。もう少しだけ、こうしててもいいかな。」

「当たり前やん。言うたやろ?存分に甘えたらえぇって。」



そういえば、そんなこと言われてたっけ。それで、私は思い切り拒否したんだった。・・・・・・それなのに。
何だかんだ言って、やっぱり侑士と居ると落ち着けるんだ。さっきまでのやり取りだって、鬱陶しそうに返してたけど、本当は、あれはあれで楽しいかなって思うし。
・・・・・・私って素直じゃないのかな。と言うか、自分で思うより、ずっと侑士のことが好きみたいだ。



「やっぱり、帰ろう!」

「何でや?もう、えぇんか?もっと甘えたらえぇねんで?」

「私もさっき言ったでしょ?『誰がそんなことするか』って。」



そう言って、私は笑った。侑士もそんな私にツッコミを入れつつも、同じように笑ってくれた。
こんな、いつも通りの、何気ない1日が、特別に思える理由は、一体何なのだろうか。なんてことを問えば、また侑士は愛だとか答えそう。それに対して、私もやっぱり、そんなノリには付き合ってやらないんだ。
そんな毎日。そして、そんな日々が私には何より大切。・・・・・・・・・・・・もちろん、そんなこと、侑士には絶対言ってやらないけどね。













 

ま、ま、間に合った・・・!!!本当、ギリギリでした・・・(笑)。
この作品も、誕生日だから書いたというわけではなかったんですが、頑張れば間に合いそうだと思ったので、頑張りました!久々の忍足夢です!そして、やっと、ヒロイン設定が普通な感じにできました(笑)。でも、急いで書いた所為で、出来がいつも以上に悪い気が・・・(滝汗)。
何にせよ。お誕生日おめでとうございます、忍足さん!!

ちなみに、これはタイトル通りですが。Acid Black Cherryの「愛してない」を聴いて、このサビ部分をバカップルっぽく捉えたら・・・と思って、書いた作品です。
なんとなく、忍足さんってバカップルっぽいイメージなんですよね。で、彼女を振り回したり、逆に彼女に振り回されたりすればいいと思います(笑)。

('08/10/15)